私が特別養護老人ホームのショートステイで働いていた頃の話です。
入浴介助と聞いて、皆さんはどんなイメージを持たれるでしょうか。
ご家庭で介護を経験された方の中には、「足が不自由な家族をお風呂に入れるのが大変だった」という思い出をお持ちの方もいるかもしれません。
施設では、状態に合わせて リフトなどを使った機械浴 と、一般的なお風呂に近い 個浴 の2種類の入浴方法があります。
今回話すのは個浴の話です。

男性職員と女性利用者
介護業界は女性職員が多い職場ですが、利用者の方も女性が圧倒的に多く、利用者が10人いれば女性は7~8人ほど。
そのため、自然と「女性利用者を男性職員が介助する」という場面が生まれます。
もちろん介護を受け慣れている方は抵抗なく受け入れてくださることもあります。
しかし、初めて施設を利用する方にとっては、見知らぬ男性に入浴を手伝われるのは抵抗が強く、なかなか受け入れていただけません。
当時、介護職に就いたばかりの私は接し方も拙く、うまく信頼を築けずに入浴介助を断られることが多くありました。
結局、女性職員にお願いして代わってもらうこともしばしばで、情けなさと悔しさを感じながら日々を過ごしていました。
初めての成功体験
そんな中、ある日ショートステイに G様 という女性が初めて利用されました。
寡黙な方で、あまり多くを話されないのですが、不思議と私は自然に会話ができました。
そのおかげか、G様は私の入浴介助を受け入れてくださり、無事にお風呂へご案内できたのです。
初めての成功体験に胸が熱くなり、「やっと一歩前進できた」と心から嬉しく思いました。
それ以来、入浴介助を拒否されることも少しずつ減っていきました。
翌日の衝撃
しかし、その出来事はここで終わりませんでした。
翌日の早朝、私は早出勤務でG様のお部屋を訪れました。
布団にうつ伏せ気味で眠っているように見えたG様に挨拶をしましたが、返事はありません。
身体を揺らしても反応がなく、不安に思い仰向けにすると、鼻から血を流し、目を閉じたまま反応がありませんでした。
慌てて先輩職員を呼び、指示のもと人工呼吸を試みました。
体温もまだ温かく、「きっと助かるはず」と必死で息を吹き込みましたが……結果としてG様はすでに息を引き取っていたのです。
初めての「死」と向き合う

施設で利用者の方が亡くなられる現場に立ち会ったのは、その時が初めてでした。
どう対応すべきか分からず、救急要請や警察への通報、さらには事情聴取まで経験することに。
右も左も分からない中での対応は混乱そのもので、その日の午前中はほとんど何も手につきませんでした。
学んだこと
G様との出会いは、私にとって 入浴介助の成功体験 と 人の死に直面する体験 の両方を同時に与えてくれました。
介護の現場では「生きること」と「死ぬこと」が本当に隣り合わせにあることを、身をもって知った出来事でした。
介助がうまくできた喜びと、翌日の別れの衝撃。
この経験は今も忘れることができませんし、介護という仕事に向き合う姿勢の原点になっています。
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